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2008年12月 3日 (水)

僕の腕時計、彼女の指先。

土曜日の正午過ぎに腕時計が止まった。電池切れ。危うく岐阜市の戯曲塾に遅れかけた。そうなのだ。僕は腕時計がないと生きていけない体質なのだ。少し大げさか……生きてはいける。でも急に「腑抜け」になる。時間の感覚はもちろん、一見スケジュールには無縁の行動でも「やる気が無くなる」というか「落ち着かない」というか「集中力がなくなる」のだ。夜寝るときも腕時計は絶対外さないし、着けてれば、たとえうたた寝しても残った仕事があれば適度に目覚め、寝坊もしない。多分、一日の生活やレム睡眠中に、自覚なく何百回も腕時計を眺めているのだと思うのだ。それで無意識に安心したり確認したりしてるのだろう。さてそれで、丸一日不安な日常を送った後、日曜の午前に、歩いていけるアピタの時計屋に行ったわけ。この時計屋は結構気に入っていて、電池交換は高いが3年間無料保障なので、いそいそと出かけた。ちなみにこの日は11月30日で、珍しく店内には数人の客。よく見れば「今月限り」の閉店セールのチラシ。つまり本日で最後の営業だったのだ。全品30%OFFだという。でも店側は見慣れた女性の店員が一人だけ。仕事にプライドを持っていて、時には冷やかしの客をクールに扱う彼女を、結構気に入っていたのだが、今日で閉める店内を少しずつ整理しながら、最後の店への寂しさを隠しながら、黙々と仕事をこなしている。無料で電池交換できる最後のチャンスを見逃さず、見事に停止してくれた僕の腕時計の功績を借りて、少しだけ喋る。「全然知らなかったよ。別の支店に行くの」「いえ、もう辞めるんです」「そうなんだ」「ええ、この仕事自体を…」。何だか村上春樹の主人公のような気分。もう少し喋りたかったが、そこはさすがに現実。僕の後の客が、多分早めのクリスマスプレゼントにするつもりか、ギフト包装を依頼して、それ以上の会話は進まなかった。いささかぎこちない手つきで、それでも丁寧に小箱を包装する彼女を暫し眺める。最後のリボンをギュッと…力を込めた彼女の指先を見納めに、持ち合わせの無い僕は店を出た。こうして僕と彼女の時間は2度と交わることはなくなった。

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