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2009年5月19日 (火)

国境とアートな魂~中欧旅行記②

帰国して2週間近く経つのに「時差ぼけ」が続いている気がする。違うのかなぁ…。基本的にフリーな仕事だから後を引くのかなぁ…ちゃんとサラリーマンだったりすると、も少し早くサイクルが戻るのか…何だか一日の間で2時間ぐらいを数回眠っている感じ。新作「河童橋の魔女」の名古屋公演も迫り、雑務も溜まってるのにね…午前中はほとんど仕事にならず、軽い頭痛と慢性的な眠気に襲われている。こんなに手強いとは思ってなかったなぁ、時差ぼけが。極度に飛行機が苦手なんで、離着陸にばかり気を取られていたもんな。きっと向こうでの時差は、到着後の異国情緒やニュースや溢れる刺激によって、体調の狂いも麻痺してたんだな。そこで多分、6泊の間にカラダがすっかり慣れたんだろう。これが良くなかったんだな、6日間という長さがさ。そして再び帰国の時差。こちら側の生活は以前と比較がしやすいわけで、ま、当然と言えば当然のツケかもしれない…。んでと、忘れないうちに旅行記の続きなんだけど……実に長い歴史の中で、そのほとんどを他民族からの侵略により彩られてきたハンガリー。多くの音楽家や美術家を囲い、ついでに自分たちまでも城壁で囲い続けて生きてきたウイーン。どの国も経験した「戦争による都市の破壊」から奇跡的に免れ、今なお石畳の道路の上で中世の風景の中で生活が成立しているプラハ。訪問した3国それぞれのくっきりした趣は、町並みを歩くだけで染み入ってくる。日本人のいわゆる「島国根性」って奴との比較が、論理ではなく、空気の実感として体感される。世界遺産の中にちゃんと息づく今の生活。異邦人のこちらは肩の力が抜けざるを得ないような感慨に包まれる。ドナウ川を上流へと向かいながら、国境はハイウエイの小さな青い看板のみ。バスは減速もせずに通過する。昔はちゃんと衛兵に検問所で止められて、全員のパスポートチェックまであったという。ほんの10年ほど前の話だ。まだまだ長い社会主義から開放され、自由を満喫しながら戸惑ってもいる人々を垣間見る。時間がゆっくり流れている。民族の誇りを受け継ぎながら、明るい個人主義は貫きながら…。ブダベストの、いわゆる「ブダ地区」の世界遺産の城の階段で、初老の2人組みが音楽を奏でている。一人がバイオリン、一人がチェロ。見事な技術とアンサンブル。僕より20歳は年上だ。しばし聞きほれているとツアーの行列は遠くなる。どの国でも通用する「ユーロ」の安い紙幣を、彼らの前に置かれたシルクハットに投げ入れて、僕はその場所を後にする。チェロの方が僕に器用にウインクを飛ばす。旋律には少しのブレも残さずに。きっと彼らもアーティストだったのだ。売れたか売れなかったのかは判らないけど。せめて今夜の飲み代の足しになってくれれば良いなぁ。もしかしたら「明日のパン」なのかも知れないけど…。その夜のディナーはブダベスト郊外の、いわゆる「森のレストラン」。ジプシーの血を受け継ぐ楽団がこれまたいろいろショーを披露する居酒屋だ。名曲のソロあり、伝統的な踊りあり、客層にあわせた選曲あり(「荒城の月」のジャズアレンジはなかなかのモノだった。ツアー同行の社長さんは「そこはちょっと違う」と文句言っていたけど(笑))、アドリブのコントあり。いずれもテクニックは一流。なのに生活の為に止む無くやっているだろうその行為に、迷いや暗さは感じさせない。余計に悲しくなってくる。最後にバンドネオン担当の、多分この集団のリーダーが演奏しながらテーブルを回る。いささか興ざめする周囲の面々の中、酔った僕は大目のチップを彼の胸ポケットにこっそり沈める。バンドリーダーもまたこっそりウインクを返す。僕もね、東洋の島国でささやかにアートしてるんだ。演劇なんだけどね。ツアーだからゆっくりは話せないけど、なかなか素敵な集団だったぜ。何も伝わらないのは承知のうえ、僕も慣れないウインクで返す。きっと楽屋に戻ってチップを整理しながら「東洋人はやっぱダメだな。一人の浮かれた酔っ払いを除けばね」なんて喋っているのだろうな。もう2度と会うコトのない彼らのアートに触れ、遠い異国で自主トレをしている我が集団に想いを馳せながら、その夜はブランデー漬けで就寝した。 

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